Our Philosophy

Why Coffee, Why Hayama

なぜコーヒーなのか。 その原点は、1987年のニューヨークにあります。

ニューヨーク大学で過ごしていた頃、グリニッジ・ビレッジのカフェ・ダンテで、初めて本当においしいカフェラテを飲みました。 ただ眠気を覚ますための飲み物ではなく、味わうための一杯。 香りや温度、口にするまでの空気まで含めて、コーヒーがひとつの体験になりうることを、その時初めて知りました。

今では当たり前になったエスプレッソやラテも、当時の日本ではまだそれほど身近なものではありませんでした。 だからこそ、その一杯は自分にとってとても新鮮で、強く印象に残るものになりました。 コーヒーが、ただ飲むものではなく、時間や空気まで含めて味わうものになった瞬間でした。

もちろん、その時すぐにコーヒーの店をやろうと思ったわけではありません。 その後の私は、写真の仕事を続けながら、さまざまな土地を訪れ、動き続けるように生きてきました。 モーターサイクルも、その大切な一部でした。 三十歳までにバイクで四十七都道府県を巡り、ダカールラリーにも挑戦しました。 自分にとってバイクは、ただの乗り物ではなく、世界との距離を縮め、感覚を開いてくれる存在だったのだと思います。

でも、動くことのよろこびを知っているからこそ、立ち止まる時間の大切さもわかるようになりました。 速さの中では見えないものがあり、止まることで初めて戻ってくる感覚がある。 コーヒーには、そんな時間をつくる力があると思っています。

葉山に移り住んでから、その感覚はさらに自然なものになりました。 葉山には、都会とは少し違う時間が流れています。 海と山が近く、風が抜け、光の変化が近くにある。 何かを詰め込んで進むというよりも、その日の天気や波や空気に合わせて、人の時間が少しだけやわらかく動いていく。 遊ぶことと暮らすことが無理なくつながっていて、急ぎすぎなくても一日がちゃんと満ちていく。 そんな土地柄そのものが、この店の大切な一部になっています。

ここは、ただ暮らす場所というだけでなく、遊びのフィールドでもあります。 海へ向かう朝、山へ入る前、バイクや自転車で走り出す途中、そして遊び終えて少し力を抜く時間。 FELICITYは、そんな葉山の時間の流れの中にある、ひとつの入口のような場所でありたいと思っています。

FELICITYという名前は、この場所にあった、ヴィンテージバイク好きのあいだでよく知られた「幸福商會」の"幸福"を英語にしたものです。 この土地に残っていた名前の余韻に敬意を払いながら、ここから新しい時間を始めたい。 そんな思いを込めて、この名前を選びました。

私たちが目指しているのは、日常の中に小さな余白をつくるコーヒーです。 ニューヨークで出会ったエスプレッソの豊かさと、日本の喫茶店文化が育んできた静かで丁寧な時間。 そのどちらにも敬意を払いながら、深みとバランスのある一杯を届けたいと思っています。

コーヒーは、人生を大きく変えるものではないかもしれません。 でも、一日の流れを少し変えることはできる。 気持ちを整えたり、呼吸を深くしたり、誰かと時間を分かち合ったり。 ほんの少し立ち止まることで、見えてくるものがあります。

FELICITYが、葉山の空気の中で、そんな時間のきっかけになる場所であれたら。 そしてその一杯が、名前の通り、いっぱいのシアワセにつながっていけたらと思っています。

— 桐島ローランド

Hayama, Kanagawa

Est. 2024